雑音ジャングル

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 他の物を見ていこうかとぶらついたが数分で店を出る。ほしいものがいくつもあるから。さっきの本屋だってそうだ。目当てのものだけ決めていったのに、偶然目に入ったものを買うかどうするか迷って、他のを見ながら考えようとしたらほしいものが増えてしまった。バイトをしているとはいえ高校生には金がない。交遊費だってあるんだから。だから血涙を拭いながら本屋を出て息を整えながらぼおっとしていたらあんなことになってしまったんだ。このままでは二の舞だ。即刻避難。  店内の温もりをコートの下に隠してきたのにすぐに盗まれてしまう。体を縮こまらせてポケットに手を避難させて新宿駅南口を目指す。もっと早く歩いてさっさと電車に乗りたいけど、顔にぶつかる空気の冷たさはそんなにすぐには慣れるもんじゃない。マスクをしてニット帽かぶって大きめの眼鏡をしたい。誰かとくっついて歩くのは温かいのだろうか。すれ違う人たちや前を行く人たちを見ながら俺も彼女ほしいなとか思って、暖を取るためだけにそんなことを考えるとかアホだわって思うけど、体よりも心の暖がほしいということに気がつく。なんでそんなこと思うんだろうなって夜空を見上げた。雲はないのに星はほとんど見えない都会の空は、遠いのか近いのかわからない。  見上げていても上だけを見ているわけじゃない。歩きながらだから前もしっかり視界に入れてる。人や物にぶつかりそうなら避けるくらい造作もない。華麗に避けてやりますよ。  ただ、人だかりができていることには気づかなくて、それに気がついたのは音が聞こえたから。人の声とも車の音とも足音とも違う、雑音のジャングルを切り進んでいくようなイメージ。ギターの音と、歌声だ。
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