新興宗教に似た何か

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 なんにせよ、もう一度聴いてみればわかることだ。高校が新宿で良かった。帰りに確かめられる。あの日は確か、十八時か十九時くらいだったはずだから、最終下校時間まで居座って、また紀伊国屋に行って立ち読みしてから行けばいい。本命は日曜日だけど、もしかしたら他の日もいるかもしれないし。  なんて考えは甘甘の甘で、一週間あの場所に通いつめてみたけど全く会えなかった。まあ会えないならそれはそれ。そんなに気にすることでもないし、一週間経ったら流石に落ち着いたから、数日で忘れるだろう。三年になるまでにあと二カ月半、京司たちと遊んでたらいつの間にか忘れて、受験勉強で忙殺されること間違いなしだ。  なんて考えながらこれからまた行こうとしている千紘なのだった。もしかしたら場所変えてたりするのかもしれない。今日は新宿駅一周してみようか。  放課後を迎えて京司たちの誘いを断わり、教室で一人本を読む。バイトはないしすぐに向かってじっくり待ってみても良いかもしれないけど、それをするなら休日の方が効果的だと思う。平日はあっちにだって何か仕事とか用事があるだろうし。  だから、確かに暇はしていたけれど、暇とはいえこっちは言わば臨戦態勢でいたわけなのに、先生に見つかり雑用を頼まれ、気が抜けてしまう。力も抜ける。なんでよりによって最上階まで上がらなきゃいけないんだ。 「悪いな種樫。助かったよ。行ったり来たりはきつくてな」 「いえ別に」  荷物をテーブルの上に置いて早々に準備室をあとにする。飲み物の一つでもせびろうかと思ったけど気になることが出来てしまったから諦めた。  単純だと思うけど、ギターの音が聞こえたんだ。  ギターイコールあの人という式が頭にできあがってしまっていて、七階に着いた時に開かれていた廊下の窓から聞こえてきたその音に体が反応してしまった。だから今こうして窓から顔を出して音の発信源を探っている。クソ寒い。気のせいじゃなければたぶん上から聞こえている。色んな騒音は下から来るけど、ギターだけ別の方向から聞こえている気がする。  うちの学校の屋上はプールになっているはずで、その他も出れなくはないけど、何処もカギがかかっているはずだ。というかプールの方だって鍵がかかってるはずだ。屋上なんて、何処の学校だってそうなんじゃないの? 小中もそうだったし。
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