第1章

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 言われてみれば、たしかにそのとおりである。自分の容姿云々についてはこの際どうでもいいとして、兄の蓮爾に関して言うならば、まったくもって、あれを基準に女性が自分の女らしさについて戦意や自信を喪失するなど、まずあり得ないことだった。むしろ、その『女』を武器に猛烈アピールして言い寄られるタイプだったからである。  しかし、だとするとなぜ……。 「どうしたの、突然。学校で、だれかになにか言われた?」  不思議そうに訊かれて返答に窮し、櫻李は結局、適当に笑って誤魔化した。 「なんでもない。ちょっとね」  そして、いってきますと挨拶をしてふたたび踵を返し、異母妹の迎えに出発した。  大学でだれかになにかを言われているのは、いつものことである。  釈然としない気分のまま、門を通り抜ける。そのとき耳もとで、不意に『なにか』が忍び笑いを漏らしたような奇妙な感覚が、一瞬だけ、微風のように吹き抜けていった。そんな気がした。
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