僕が眠ったら

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辺りを見渡すと、先に仕事を終えた佐々木さんが椅子に座って休んでいた。 「佐々木さん!お疲れさまです!」 「おーごくろうさま~」 僕は佐々木さんの隣に座る。時間が余ったときはこうして話すのが日課になっていた。 「………あんたはいつも大変そうだね…」 「……?なんでですか?」 「分別する記憶が多そうで」 佐々木さんは忙しそうに動く周りの人たちと、自分の部屋を交互に見ながら言った。 「私はいつも夢を見せておしまい。この時間も退屈でしょうがないよ」 「………えっ……?」 僕はとっさに、佐々木さんのほうを見た。佐々木さんの目はいつもより細くて、悲しそうだ。 「分別なんてしないで、ゴミに捨てちゃうんだよ。勉強も、楽しかったことも、いつも色が薄れて使い物にならない。……君との記憶も、ね」 「………そうだったんですね…」 僕は佐々木さんのことをあまり知らない。ここでの佐々木さんとしか話したことがない。まさか、身近にこんなにも傷ついている人がいるなんて…… 「……私って、本当に必要なのかねぇ…」 「な、何言ってるんですか!必要ですよ!」 僕はついムキになって、声を荒げてしまった。驚いた人たちが、一斉にこちらのほうを見てくる。 「いつかたくさん仕事が出来て、大変な思いをしますよ!!」 「そうかい?でもいくら私たちが頑張ったところで、私たちの未来は分からない。私たちに道は作れない。それなのに……」 「そんなことない!!」 言葉を遮って、佐々木さんの目の前に立つ。目が丸くなるほどに驚いている佐々木さんを見るのは初めてだ。 「………僕がなんとかします」 「言ってるだろう。私たちには、何も出来ない」 「絶対に僕がなんとかします!現実世界の僕が!絶対に!」 「…………!」 佐々木さんは下を向いたまま、何も言葉を発しない。そしてそのまま立ち上がり、自分の部屋に向かった。気がつくと、佐々木さんの部屋のランプが点滅している。 「まだ5時でしょ…?まだ話したいことがあるのに…」 「……女の子は色々大変なのさ。いつも遅刻ギリギリの、君と違ってね」 佐々木さんはさっさと自分の部屋のドアノブに触れ、足を止めた。 「………今日は、退屈させないでくれよ 。おやすみ」 「………!はい!おやすみなさい!」 窓の外からは、太陽の光が射し込んでいた。
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