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いつもなら、あたしの冒険はここまでだった。ここで引き返してアパートに帰る。部屋にはケンカを続けたままあたしの方なんて見向きもしない二人がいるだけ。わぁわぁとあたしの知らない言葉でケンカする二人がいる部屋の片隅で、また本の世界に戻るんだ。
でも、今日はちょっと違う。あたしは帰らないと決めていた。
あたしは家の方向に背中を向けて、今度は走り出した。どこか、遠くへ飛んでいけたらいいのに。ジャンプして、空高く飛び立って、あったかい、良い匂いのする優しい世界へ。そこでは誰もケンカなんてしない。美味しいご飯と、笑い声と、あったかい布団があるの。
走り出したあたしの耳に、突然何か小さな鳴き声が聞こえてきた。あたしは走る速度をゆるめ、耳を澄ませる。
みーー! みぁうー!
猫だ。どこかから猫の鳴き声がする。
きょろきょろと顔を左右に向けて猫の姿を探す。すると、目の隅っこに、ささっと横切る影が見えた。
「あっ!」
急いで目で追うと、灰色のスマートな子猫がたたたっと道路の端を曲がっていった気がする。あたしは急に楽しくなって、その子猫を追うことにした。
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