臆病者の恋

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 こんなかたちでしか想いを伝えることができなかった。  何せ私はいくじなしだから、もし想いが伝わらなかったとき、翌日から先輩と顔を合わせるのがしんどくなるなと、そんな心配ばかりを抱いていた。だから卒業式前日、思い切って先輩に告白したとき、本当は先輩が私を好きでいてくれて、同じように私に想いを伝えそびれていたことを知った私は、ただもう悔しくて仕方がなかった。どうして、もっと早く伝えることができなかったのだろうと、おのれの臆病さが恨めしくて仕方なかった。 「ごめんなさい、先輩」  悔しくて悔しくて。どうしようもなくなった私は気づくと頬を濡らしていた。夕暮れの教室には私たち二人を除いて生徒の姿はない。が、仮に誰かが残っていたとして、やっぱり私は今の醜態を晒していただろう。 「もっと、早くに伝えていたら……いっぱいあったのに、先輩と一緒に行きたいところ、見たい景色、食べたいもの……いっぱい、いっぱいあったのに……」  だが、泣いても笑っても明日は卒業式。実際の上京日までは幾ばくかの猶予があるとして、それでも恋人として重ね得る時間はあまりにも乏しい。  ああ。もっと早くに伝えていれば。  重ねた想い出も、時間も、今よりずっと多かったはずなのに。   不意に手を引かれ、涙目のまま顔を上げる。ぼやけた視界の奥で、ふわりと先輩が微笑むのを私は見た。 「じゃ、行こうか、今すぐ」 「えっ?」 「お前が行きたいとこ全部、今すぐ、全部制覇しよう。終わったことを悔やんでも仕方がない。その代わり、もう悔いがないように思いっきりやろう――ほら、泣いてる場合じゃないぞ」
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