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 「クシナダは今宵、ヤマタノオロチの生贄となります」  老婆が言った。  ふんふんそうか、へーほーと聞き流すところだった。  何だと、この乳が、たかが蛇野郎の生贄になるのだと、許せん。  簡単に激昂したスサノオである。  一方クシナダは、冷たい程の無表情だ。淡々と酌を続けている。  「どうかスサノオノミコト様、うちの娘を救ってください。そうしたら娘をあなた様に捧げます故」  と、老夫婦はひれ伏した。  スサノオは言う。もちろん引き受けよう、娘子は俺が引き受ける、肌身離さずうっはうっは。  スサノオの鼻の下が果てしなく伸びる様を、クシナダは醒めた目で眺めていた。 **  夜半。  フケだらけ蚤だらけのスサノオは、ヤマタノオロチがいるという岩山を訪れる。  月のない夜だ。  スサノオは背中に酒甕をしょっている。強烈に強い酒だ。  「あちらの岩に、置かれませ」  涼やかな声でクシナダが言う。  岩山の中に、ちょうどくぼんでいる部分がある。そこがヤマタノオロチの巣だと言う。  「そこにお酒を置いておけば飲むでしょう。そうすれば酔っぱらってすぐに寝ることでしょう」  クシナダは言った。知恵者である。     
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