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3
「クシナダは今宵、ヤマタノオロチの生贄となります」
老婆が言った。
ふんふんそうか、へーほーと聞き流すところだった。
何だと、この乳が、たかが蛇野郎の生贄になるのだと、許せん。
簡単に激昂したスサノオである。
一方クシナダは、冷たい程の無表情だ。淡々と酌を続けている。
「どうかスサノオノミコト様、うちの娘を救ってください。そうしたら娘をあなた様に捧げます故」
と、老夫婦はひれ伏した。
スサノオは言う。もちろん引き受けよう、娘子は俺が引き受ける、肌身離さずうっはうっは。
スサノオの鼻の下が果てしなく伸びる様を、クシナダは醒めた目で眺めていた。
**
夜半。
フケだらけ蚤だらけのスサノオは、ヤマタノオロチがいるという岩山を訪れる。
月のない夜だ。
スサノオは背中に酒甕をしょっている。強烈に強い酒だ。
「あちらの岩に、置かれませ」
涼やかな声でクシナダが言う。
岩山の中に、ちょうどくぼんでいる部分がある。そこがヤマタノオロチの巣だと言う。
「そこにお酒を置いておけば飲むでしょう。そうすれば酔っぱらってすぐに寝ることでしょう」
クシナダは言った。知恵者である。
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