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なつのかたち
プールの授業はそんなに好きじゃないけど、消毒の匂いはセミの鳴き声とセットになって、結構夏を感じられるから好きだ。
草や木の葉の、少し日に焼けた匂いが風に乗って校庭で踊っている。ザアザアとした音も曲の間奏に重なり合うバイオリンのようで、なんだか胸がムズムズっとする‥‥
なんてね。
僕は校庭のど真ん中で大の字になって寝ている‥‥ ただ、気持ち良かったのはほんの13秒ぐらいだ。
「暑くないの?」
「‥‥暑い」
「みんな、帰ったけど」
補習の後、急いで帰っても別に何もなかったので、だらだらしていた。学校の中で、この取り残された感じが結構いいって思ってた‥‥このままずっと一人なら、もっと味わえたと思うけど。
「でも、なんで姫野が補習? すごい頭いいのに」
「そんな事あるよ」
「ないよ、でしょ。ふつう」
「フフ、でも補習はいいよ。なにより復習になるし」
「そういうことを言っちゃうんだ」
立ち上がってバッグを拾う時、姫野が背中を軽くパンパンしてくれた。
「どうするの? 進学でしょ?」
「そうなる‥‥のかな」
「なに、それ」
校舎を出て左に曲がると、ずっと向こうに入道雲が二つ見えた。なんだか剥がしたくなるぐらいの。
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