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「ねぇ」
「なんですか」
「なんでもない」
「さいですか」
窓に降り注ぐ茜が心地よく、柔い風が丁度いいくらいにひんやりしている春の黄昏。その日の授業が終わり主要な役目を終えた空き教室に、図々しくも僕らは留まって文庫本を広げていた。
「先輩、用がないなら呼ばないでください」
「今更でしょう」
「今更ですけど、直してくれてもいいんじゃないですかいい加減」
「それこそ今更でしょう?」
「……そうですね、今更ですね」
仰々しく唯我独尊というよりはただただマイペースなこの人は僕たち文芸部の部長。ちなみに僕は副部長なわけだが、もはや名乗ってるだけの二人体制の部活に、役職なんて必要なのか疑問ではある。前にその旨を伝えたところ、面白いからと至ってシンプルかつ曖昧な、それでいてこの人が言うために妙に圧力を増した言葉に、成すすべなく白旗を振った。
「そんなことより、今どこまで読んだの?」
「一二六ページです」
「私より読むのが早いなんて生意気ね」
「横暴極まりないです」
文芸部の活動は放課後に同じ本を読み感想を言い合うという、割とそれらしいことをしている。交代でその日読む本を人数分持ち寄り、その場で最後まで読んで好評か酷評か互いに吐き出す。なお、自分たちでは書かない。あくまで読む専門だ。
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