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それからしばらくは、ただ穏やかな時間が流れた。
本をめくったり、風が木の葉を揺らしたりするくらいしか音がなく、静かな空間で私は過ごしていた。
ところが、途中で私は急に、居心地の悪さを感じた。
……誰かに見られている気がする。
そう気付いて視線を上げると、正面の木に寄りかかって立つ、男の人と目が合った。
白い着物姿で、まっすぐな黒髪は短く切られている。歳は私と同じか、少し上くらいに見えた。
着物を着ていたので神社の管理をしている人なのかと思い、私が慌てて立ち上がろうとすると、何故だか彼はとても驚いた顔をした。
「ちょっと、君。もしかして、僕の姿が見えるのかい?」
そう聞いてきた彼のことを私は少し不審に思ったけれど、彼があまりに真剣な表情で聞いてきたので黙って二回、頷いて見せた。
「そうか、見えるのか。困ったなぁ……」
彼は口に出した通り、とても困った顔をしていた。幽霊なんて信じていないけれど、彼はもしかして本物の幽霊なのだろうか。だとしても、何故見られてあんなに困っているのだろう。
彼は、立ち上がろうとしただけで結局まだ座ったままの私を見ると、自分も胡坐をかいて座り、木に寄りかかった。
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