0人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだよ。僕にできることなんてそれくらいで、実際にこれからを良いものにしていくのはその人自身なんだ。神様にお祈りしたら、神様もその人のことを思ってくれるけど、形にしていくのは結局その人だから。君のこれからだって、君が作っていくものだしね。僕ができるのは、少しだけその人の気持ちに寄り添ってあげることだけ」
必要な時に少しだけ背中を押す力になることが、彼にできる精一杯のことなのだという。
私はそれを聞いて神様は万能ではないことを知ったけど、その代わりに神様にお祈りをしたときに、少しだけ心強く思える理由を知った。
やがて、少しずつ日が傾いてきた。随分長い時間此処にいたんだなとしみじみ思いながら、私はしおりを挟んで文庫本を閉じる。
「そろそろ帰るのかい? それが良いね、暗くなると危ないから」
彼は私がカバンを持つのを見ながらそう言った。
「今日はありがとうございました。……なんだか、気持ちが軽くなったような気がします」
「それなら良かった。さて、気を付けて帰るんだよ。辛くなったらいつでも来て良いからね。見えなくても、僕はいつでも此処にいるから」
この神社から離れたら、もう二度と彼には会えないのだということを思い出して、私は鳥居をくぐる前にもう一度後ろを振り返った。
「神様」
「ん、どうしたの?」
彼はまだそこに立っていた。
「私、今日あなたに出会えてよかったです。本当にありがとうございました」
きちんと顔を見てお礼が言える、これが最後のチャンスだ。
最初のコメントを投稿しよう!