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「告ってくる!」
完成まであと少しのところで先輩を呼び出した隣のクラスのあの子が目元を赤くしながら一人で戻ってきたことを思い出す。
髪を櫛で梳かして色付きのリップを唇に塗った彼女は意気揚々とした自信に満ちあふれていたのに、唇を噛みしめていた姿を知ってしまえばどうして自分は大丈夫だなんて思えるのだろう。
それなら、少しでも気まずくない時期を狙おうとしたっていいじゃないか。
あぁ、そうだ。煩わせたくないだなんていい子ちゃんな部分は建前で、開き直ってしまえば本当は自分が傷つきたくないのだ。
それでもこんなタイミングで告げるつもりなどなかったのだけれど、心の柔らかいところがもう抱えきれないとばかりに言葉を零していった。
昼間の熱を帯びた風とは違い、秋めいた風が夕日を透かすカーテンと脚立の上から振りむいた先輩の髪を揺らす。
唐突な告白に驚いたみたいできょとんと目を丸くしたあと、ぱちりぱちりと瞬きを繰り返したどこか子どもっぽいその表情が途端に綻び、喜びを隠しきれない笑顔に変わった。
「俺もずっと好きだったんだ」
「うそ」
「ホントだよ」
戸惑いのあまりに眉の下がった情けない顔が表面に出てくる。
だって受験が、と耳にしたばかりの噂話を口にすれば、口実だよと優しく言い聞かせるように彼が笑った。
その笑顔に覚悟を決めていても痛みを感じていた胸が温かいものでいっぱいになる。
唇が緩んで仕方ない。
「真っ赤だね」.
頬へと伸ばされた先輩の指を追うようにして触れた案外冷たい別の感触でさらに顔は熱を帯びた。
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