それは魔法の言葉みたいで

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「う……」  私は包帯が巻いてある右足を、椅子の下に隠した。全治数週間程度の軽い捻挫だが、大事を取って練習には参加しないように言われている。 「だから、お願い!」 「お願いって言われても……一人でやるのはちょっと」 「あ、そこは大丈夫。3年の先輩と一緒にやるんだって、一人でやるのはキツイじゃん」 「知らない人と?」 「別に仲良くなれって言ってるんじゃないんだし、お願い! 頼りになる人、クロロしかいないの!」  そう言って頭を下げる友人の姿を見ていると、なんだか申し訳なくなってくる。私が渋々頷くと、彼女は飛び上がるように喜んだ。 「でも、松崎先輩引退の夏なのに……」 「それは、怪我をしたクロちゃんが悪い」  放課後のテニスコートで、私はテニス部マネージャーである日奈子と一緒にドリングの用意をしていた。視線の先には、他の男子部員を打ち合いをしている松崎先輩がいる。先輩はこのテニス部の部長でエースでかっこよくて……私のあこがれの人だ。 「あー、もう。早く治んないかな、せめて先輩が引退するときだけ治ればいいのに」 「そんなにひどいの?」 「悪くはないんだけど、変なひねり方したから治りが遅いって」     
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