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「なるほど。それは確かに不思議ですね。」
話を聞き終えた漣はそんな感想を洩らした。
先程、彼女が注文したロイヤルミルクティーはすっかり冷めてしまっている。
話し終えたというのに、カップの中身は注文してから半分程しか減っていなかった。
「警察には相談されたのですか?」
「えぇ、1週間経っても帰って来ないので[彼が]手続きをしてくれたみたいです。」
いまだに行方不明のまま、消息すら掴めていない自身の片割れを再確認した彼女の表情は来店した時とはうって代わり、暗く落ち込んでしまっている。
「こうして、街に用がある度に私も姉を探してはいるのですが・・・その甲斐も虚しく、月日だけが流れていきました。」
「一体、何処に行ったんでしょうね?2人の側にいるのが辛くていなくなったのだとしたら・・・せめて、置き手紙の1つぐらいあってもいいようなものなのに。」
彼女につられ、珍しくライルの表情も暗い。
そのせいで2人の間には、どんよりとした空気が流れている。
「彼女は[貴方の中にいます]よ。」
そんな2人を見かねて、漣は口を開いた。
「・・・・・・はい?」
漣の言葉に彼女はポカンとした表情をして顔を上げる。
どうやら、漣の言葉の意味が分かっていないようだ。
「すみません、マスター。あの・・・[意味がよく分からない]んですけど?」
そんな彼女の代わりに、ライルが手を挙げて漣に質問をする。
「[そのままの意味]ですよ、お客様。」
「えっと、あの?」
漣の言葉で彼女は、ますます意味が分からないといった表情で狼狽えた。
「貴方は先程こう言いましたよね?[まだ姉を覚えていらっしゃる方がいるなんて]、と。」
「えぇ、言いました。でも、それが何か?」
「何故、突然いなくなったのか?行方も消息も掴めない上に・・・生きているのかも分からない。でも、[彼女の事を覚えている人間がいる]。それは勿論、[貴方も同じ]ですよね?」
「当たり前です!!そんなに簡単に忘れられるハズないじゃないですか!!だから、私は・・・」
「ほら、[貴方の中に彼女はいる]じゃないですか。」
「・・・・・・・・・えっ?」
漣にそう言われた彼女は途中まで出しかけていた言葉を思わず引っ込める。
「そうネガティブに考えるのは止めて、ポジティブに思考を切り替えましょう。考え方1つで気分も変わるというものです。」
「なんか、珍しくマスターが善人に見えてきた。」
「・・・お前は俺を一体なんだと思ってんだ?」
そして、和やかになりつつあった雰囲気が[ライルの余計な一言で全て台無しとなった]。
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