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「そうやって、貴方が彼女を忘れずにいるのであれば・・・何故、彼女が急に消息を絶ったのか・・・いつか分かる日がくるのではないですか?」
「そう・・・ですよね。」
漣の言葉を少しずつ理解しているようで、彼女の表情は段々と柔らかいものへと変化していく。
「折角、今日は[彼に良い報告が出来る]のに・・・こんなに悩んでしまうなんて勿体ないですよね。」
「そういえば、街に用があると仰っていましたね?」
そうなんです、と彼女は満面の笑顔を見せる。
「最近、体調がおかしいなと思って・・・病院に行ってみたら3ヶ月だと言われました。」
「わぁ~、おめでとうございます!!」
「それは・・・おめでとうございます。」
2人から祝福の言葉を貰い、先程まで暗い表情をしていたのが嘘だったかのように彼女は明るく笑って言った。
「彼には既に電話で伝えました。詳しい事はまた家に帰ってから報告すると。そしたら、[今夜はいつもより豪華な料理を準備するよ、また珍しい食材が手に入ったから]、と言っていて・・・[彼はとても嬉しそう]でした。」
「ロイドさん・・・でしたっけ?やっぱり、[自分の家族が増える事が嬉しい]んじゃないですか?」
彼女の笑顔につられ、ライルも満面の笑みを見せる。
「[珍しい食材]に・・・[いつもより豪華な料理]、か。」
あまりに小さく呟いた漣のその言葉は・・・盛り上がっている様子の2人には届かない。
「ここは不思議な喫茶店ですね。貴方達とは初対面のハズなのに、こんなに話し込んでしまうなんて。」
「あぁ、[それはよく言われる]んですよ・・・[特に初めてこの店に訪れた方から]。」
「そうなんですか?ますます不思議で魅力的な喫茶店に見えてきました。」
クスクスと笑う彼女を見て、漣とライルは思わず苦笑を浮かべてしまう。
「では、そろそろ失礼しますね。」
「あぁ、そういえば・・・[貴方に少々聞きたい事がある]のですが。」
漣は会計を済ませて立ち上がろうとしていた彼女に声を掛けた。
「はい、なんでしょう?」
立ち上がりかけた体を再び椅子に沈め、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「貴方の彼に関する事なんですが・・・[彼は以前、どんなお仕事を?]」
「何故、急にそんな事をお聞きになるのですか?」
「そうですね・・・孤児だと言っていた彼が[大変な思いをしてまで貴方の為に仕事を変えたのが気になりまして]。飲食店で働く前はどんなお仕事をされていたのか・・・ふと疑問に思ったのですよ。」
思いもよらない漣からの質問に、彼女は困惑した様子を見せながらも質問に答えた。
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