1022人が本棚に入れています
本棚に追加
「[お肉屋さん]・・・と、言えばいいのかしら?」
「何故、貴方が疑問形で答えるのでしょう?」
顎に手を当てて悩んでいる姿の彼女は更に説明を捕捉していく。
「世間一般的にお肉屋さんと言っても、彼の場合は・・・[動物を解体、加工するのが主な仕事]だったと思います。」
「なるほど・・・ね。」
彼女の返答に納得したのか・・・漣は1人頷いている。
「どうかしたんですか、マスター?」
「・・・いや、ちょっとな。」
「あの・・・そろそろ失礼しても?」
難しい顔をした漣を見かねてライルが声を掛ける。
そんな2人に構う事なく、彼女はゆっくりとした動作で椅子から立ち上がった。
そして、外に向かって行く彼女に漣は最後にこんな質問を投げ掛ける。
「[貴方は今のままで幸せですか?]」
ライルには漣の質問の意味が分からない。
別に聞かなくても分かるだろうに・・・何故、今更そんな事を?
そう思ったのかもしれない。
だが、漣は[敢えて口に出して問うた]。
「えぇ、[私は今のままで充分幸せ]です。」
漣の質問に今日1番の笑顔を見せて答える彼女は、そのまま言葉を最後に喫茶店から去って行く。
カランッと、ドアに取り付けられたベルの音が店内に小さく響き渡り・・・そして、消えた。
「ねぇ?マスターは[なんであんな事を聞いたんですか?]」
結局、彼女が立ち去った後・・・客は誰1人として入っては来なかった。
今日はもう店じまいだと閉店作業をする漣に、ライルがポツリと呟いて先程の質問に対しての疑問を口にする。
「[あんな事]って?」
「彼女が幸せかどうかって・・・そんなのわざわざ聞かなくても分かるでしょ?」
「あぁ・・・その事か。」
少し拗ねた様子のライルに苦笑を浮かべつつ、漣は[ライルがいつの間にか持ち込んだ自分専用のマグカップ]にコーヒーを淹れて目の前に置く。
そのマグカップは、筆で達筆に[俺!]と書いてある[ライルお気に入りの大きなマグカップ]だ。
「まぁ、正確には・・・[今のままで幸せなのか]と聞いたんだがな。」
「・・・何がどう違うんですか?」
「彼女は妹だと言い張っていたが・・・[あの人は行方不明扱いになっているリリア本人]だ。」
「・・・・・・ハァッ?!」
漣の衝撃的な一言に、ライルは思わず大きな声で奇声を発する。
「えっと、あの・・・すみません、僕にも分かるように説明をお願いします。」
「まぁ、俺も最初から彼女を疑ってた訳じゃねぇよ。だがな・・・話を聞いていく中で[途中から彼女はリリア本人だと確信した]。」
「その根拠は?」
信じられないといった様子のライルは、漣を急かすように問い詰めていく。
「なぁ、ライル?お前・・・[彼女が告白された時の話]を覚えてるか?」
そう切り出すと、漣は自身にも用意したコーヒーを啜りながらライルに問う。
最初のコメントを投稿しよう!