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「今日はいつもよりもお客さんが少ないですね、マスター。」
ある晴れた日の午後。
この店で唯一のアルバイトである金髪蒼眼でタレ目が特徴の青年、ライル・ハルバードは空いている席に座り、休憩がてらポツリと呟いた。
「まぁ、たまにはそんな日もあんだろ。それに、ついさっき昼のピークが過ぎたばかりだ・・・一段落つくにはちょうどいいじゃねぇか。」
マスターと呼ばれた青年・・・藤野漣はライルとは違って、黒髪黒目で切れ長のつり目が特徴である。
そんな漣はカウンターで片付けをしながら、ライルに返事を返していた。
「そういえば・・・昨日、また行方不明者が出たみたいですね?今度は隣街の[栗色の髪が特徴の小さな女の子]らしいですよ?それにしても・・・[最近、頻繁に聞きます]よね。物騒な世の中だなぁ~。」
「今の世の中、何があるか分からねぇって事だろうな。お前も気を付け・・・なくてもいいか。」
「ちょっと?!なんで今、間があったの?!」
そんな物騒な話を店内で堂々としている程に、今の時間帯は暇なようである。
「マスター、もう今日はお店閉めちゃえば?」
「馬鹿言うな。それに、こんな日は大体・・・」
~カランカラン~
ライルが店じまいを促した途端、ドアに設置されているベルが軽快な音を奏で、来客の訪れを知らせてくれる。
「いらっしゃいませ。」
漣は作業をしていた手を止め、来客に向かって営業スマイルを向けた。
「空いてる席へどう・・・」
「あぁー?!リリア・ベルモンド?!」
漣の言葉を遮って、ライルが大声を上げて勢いよくその場に立ち上がる。
「いえ・・・私は[リリアではありません]。私は双子の妹のリリスと申します。」
ライルの言葉に若干戸惑いつつ、彼女は店内にゆっくりと歩を進めた。
そんな彼女のその手には[控えめな装飾が施された杖]が握られている。
「申し訳ありません。私、[目が不自由]なもので・・・ご迷惑でなければ、席に案内していただいてもよろしいでしょうか?」
呆然と立ち尽くしているライルに彼女は遠慮がちに声を掛けた。
その声で我に返ったライルは、慌てて自分が座っていた席の近くへと女性を案内する。
そこはカウンター前に5席ある真ん中・・・つまり、[漣の真正面]であった。
「・・・おい、ライル。なんでお前は、わざわざ俺の真正面に座らせたんだ?」
ライルの微妙な接客に漣は苦笑を浮かべながらそう問い掛ける。
「マスター、まさかリリアを知らないんですか?![あの超有名だった女優]を?!」
「いえ、私は双子の妹のリリスです。」
熱く語るライルに、彼女・・・リリスは冷静に答える。
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