少女よ理想は大きく抱け

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「またまた~。照れなくても、希美ちゃんの気持ち、俺は分かってるって!」 「だから違うと何度言えば…それに馴れ馴れしく名前で呼ばないでもらえますか。」 「だって希美ちゃんの理想って俺でしょ?んで、俺も希美ちゃんが好き。ぴったりお互いの好みが合致してんだから、もう俺たちカレカノでよくない?」  にこにこと笑う顔はまさしく大型犬そのものです。  犬に懐かれることは嫌いではありません。犬歯も覗いてポイントは非常に高いです。  ですが… 「何度も言ってるじゃないですか。私の理想で最も重要なのは年下であることなのだと。」  そうなのです。私の理想で大前提かつ最重要なのは、私より年下であること。  いくら叶先輩が私の理想ぴったりでも、年上である彼は前提からして私の理想から外れてしまっているのです。 「年上って言っても、たった一歳じゃん。」 「どれだけ離れてようが関係ありません。一歳でも十歳でも、それこそ一日の差だろうとも、私にとって年上は年上。そこに違いはありません。」  このやり取りも一体何度目でしょうか。拗ねたように唇を尖らす仕草は、彼のファンからすれば「可愛い~!」と絶賛される代物ですが、彼に興味のない私からすれば男が女々しい仕草をするなど言語道断だと言わざるを得ません。  男児たるもの常に男らしくあるべきです。 「叶先輩、希美は姉さん女房に憧れているんですよぉ。ねー?」  同じやり取りの繰り返しに飽き飽きとしている私へのフォローのつもりでしょうか。  話を聞いていた雪菜が割り込んできましたが、この子のフォローはフォローになっていないことの方が多く、何より今の発言は、私にとって余計な話の展開を見せる前触れにしか思えません。 「へぇ、希美ちゃんはリードしたいタイプなんだ。」 「というより、希美は守られるのが苦手なんですよぉ。ドッジボールでも、真っ先にボールに当たりに行くような子なんでぇ。」 「いいでしょ別に。ちゃんと外野での責務は果たしているんだから。」  おしゃべりな親友は小学生からの私を知っているので、こういう時に少し厄介な存在です。  勿論良い子ではあるのですが、マシンガンのように一度火がつくと遮られるまで口が止まらなくなるのです。なので時々相槌を打たなければ、きっと今も小学生時代のドッジボールから話が飛んでまた別の話題へと移っていたことでしょう。
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