第三章 風に憧れて

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横に回りこんで彼の左手を取った藍に、誠が目を丸くした。 やや困惑する少年へ笑いかけ、少女は彼の掌に自分の右手の人差し指を滑らせる。 筆談でもなく。 手話でも、指文字でもない。 最も特別なコミュニケーション。 この行動の意図に、彼は気付いてくれるだろうか。 「―なんか、藍の声が聞こえた気がする」 掌に書かれた見えない文字に、誠は隣へ顔を向け、にっと笑った。 それは、「声」を失った彼女ゆえのことば。 きちんと理解してもらえたことに、藍も顔を綻ばせた。 文字を書いた彼女の右手を優しく包み、誠が微笑みかける。 「じゃあ、帰るか」 「はい」 少し強く彼の手を握り、藍も頷く。
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