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横に回りこんで彼の左手を取った藍に、誠が目を丸くした。
やや困惑する少年へ笑いかけ、少女は彼の掌に自分の右手の人差し指を滑らせる。
筆談でもなく。
手話でも、指文字でもない。
最も特別なコミュニケーション。
この行動の意図に、彼は気付いてくれるだろうか。
「―なんか、藍の声が聞こえた気がする」
掌に書かれた見えない文字に、誠は隣へ顔を向け、にっと笑った。
それは、「声」を失った彼女ゆえのことば。
きちんと理解してもらえたことに、藍も顔を綻ばせた。
文字を書いた彼女の右手を優しく包み、誠が微笑みかける。
「じゃあ、帰るか」
「はい」
少し強く彼の手を握り、藍も頷く。
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