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第四章 あかねいろの
―わたしも せんぱいと えが かきたいです
誠は、机に向かいながら左手を眺めていた。
まだ、彼女の紡いだ「声」が掌に残っているような気がする。
そうして、本棚に立てかけたたくさんのカンバスへ目が行くのは、ここ最近ではいつものこと。誘われるように椅子から降りて本棚の前に立つ。
埃や湿気が来ないように保管している中から一枚を取り出した。
夕陽を背に、照れ笑いを浮かべる「自分」。
あのあと、藍が描いて贈ってくれた。
彼女は、画面から音が聞こえてきそうな絵を描く。
それは中学時代から変わらない。むしろ、上達しているようにも感じる。
実は、同じ絵描きとして、その腕にも惚れていたりもするのだけれど。
こうして描いてもらえると嬉しい反面、こんな顔をしていたのか、とすこし恥ずかしくなってしまう。
カンバスを裏に返せば。
『太陽のように微笑む先輩が好きです。』
藍のきれいな文字でそうつづってある。
彼女を、手放したくない。今度こそ。
鮮やかに大人の振る舞いを披露するような余裕は、この三年でとうにすり減っているから。
気持ちを切り替え、誠は丁寧に藍の絵をもとの位置に戻した。
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