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裕太がそう提案したことに、深い意味はなかった。
同じ委員会の見知った後輩で、小動物みたいになついてくるのがちょっと可愛いと思っていた。
告白されたときはフリーだったから、付き合う?と聞いたら、佳奈は目を見開いて、首からオデコにかけてどんどん赤くなった。
血が沸騰して死んじゃうんじゃないかと裕太が心配になるくらいで、そんなにも好かれているのだと思うと、少し気分がよかった。
付き合いだしてからも、佳奈は裕太を見つけるたび花がほころぶように笑顔を浮かべ、触れたところから熱くなって、文字通り全身で好意を伝えてくる。
今日も「いっしょに期末の勉強しよう」と裕太が言うと飛んできた。
佳奈はいちいち反応が大きくて面白い。
裕太が、佳奈のノートをのぞき込むと、せわしなく動いていたペンの動きがピタリと止まる。
5秒も見つめれば赤くなって、思考できなくなってるのがわかる。
「せ、先輩、近いです」
「わかんないとこないかなと思って」
裕太が用意していたセリフを吐けば、佳奈は困ったような顔で見返してくる。
「ぜんぜん頭が動きません」
「だと思った」
そう言うとますます眉を下げる。
そんな風だから、裕太はもっと佳奈に構いたくなってしまうのだが、とはいえもうすぐ試験だ。
すでに推薦が決まっている裕太に倣って、一生懸命勉強している佳奈をあまり邪魔するのもかわいそうだ。
裕太は「わからないところがあったら聞いて」とだけ言って、おとなしく教科書に戻るのだった。
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