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それから日が落ちて、空が夜に染まり始める帰り道。
裕太は当然のように佳奈の手を握って歩く。
今日はあんまり話せなかったなあと裕太が考えていると、ふと右手が引っ張られて、足を止めた。
振り向けば、佳奈が立ち止まって、地面とにらめっこしている。
「どうしたの?」
一歩戻って、腰を曲げて佳奈の顔をのぞき込む。
佳奈は涙目で眉間を寄せて、どうにも追い詰められた顔をしていた。
佳奈にそんな顔をさせる出来事に思い当たる節がなく、裕太は首をかしげる。
「佳奈?」
裕太の呼びかけに、佳奈はびくりと体を震わせ、顔を上げた。
怯えたような仕草なのに、まっすぐに裕太と目を合わせる。
「せ、先輩は」
「うん?」
「先輩は、私といてもドキドキしませんか」
必死な形相で放たれた問いかけに、裕太はとっさに答えられなかった。
予想外すぎて、質問の意図も正解も思い浮かばず、ただ瞬きをする。
一拍ののち、佳奈ははっとしたように首を振って、言葉を重ねた。
「ちが、ちがうんです。そういうことじゃなくて。あの、私、せっかく先輩が付き合ってくれて、今日だって勉強まで……なのに、先輩といるとすぐいっぱいいっぱいになっちゃって、先輩はふつうなのに、私ぜんぜんうまくできなくて」
震える声で一気に言いきって、小さく息を吐く。
「もうこんなんじゃ呆れられるって……」
消え入りそうなその姿を、裕太はかわいそうだと思った。
かわいそうで、かわいい。
自分のために泣いている彼女を慰めたいと思ったし、もっと泣かせてみたいとも思った。
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