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裕太は、佳奈のほうにもう一歩分、体を寄せて、頬を撫でる。
あたたかくて、しっとりしている。
「呆れてないよ、大丈夫」
裕太がそう言っても、佳奈は不安そうだった。
その顔を見ていると、意地悪な気持ちがむくむくとふくらんでくる。
「じゃあ、俺にキスしてみて?」
「……え?」
裕太の唐突な要求に、思わず佳奈の涙が止まる。
「慣れてないから緊張するんでしょ?だから、荒療治」
今のままでも十分楽しいけれど、いつまでも他人行儀な佳奈の態度に、裕太だって思うところが全くないわけではない。
この関係が進展したら、きっともっと楽しいだろうという予感が、裕太にはあった。
だから、どうしていいかわからずに困っている佳奈を、すぐには助けてやらない。
間接キスすらためらう女の子に無茶を言っている自覚はあったが、さっきまで泣いてたことも忘れて百面相している佳奈をもう少し見ていたいと思った。
裕太が笑顔のまま黙っていると、佳奈はとうとう俯いてぎゅっと拳を握った。
そろそろやりすぎかもしれないと裕太が口を開こうとした瞬間、
佳奈は裕太のシャツを引っぱって、それでも届かないから背伸びして、
震える唇で、掠めるようにキスをした。
それは火傷しそうなくらい熱くて、心臓の音がこっちまで聞こえてきそうなくらいで。
てゆうか、伝染した、かも。
ドクドクと高鳴りだしたこの鼓動は、いったいどっちのものなのか。
裕太は、自分の中にともった熱をごまかすように、そのまま佳奈を抱きしめた。
fin
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