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背伸び
ほこりっぽい放課後の図書室。柔らかな光が差し込んで、窓際に座るその人を照らす。
急いでいたはずの佳奈はつい、ぼうっと突っ立ったまま、その光景に見とれてしまう。
ゆったりとした空気をまとった彼は、ふと佳奈の視線に気づくと、笑顔を浮かべてひらひらと手を振ってきた。
「っ裕太先輩、お待たせしてしまってすみません!」
佳奈は慌ててその席に駆け寄り、頭を下げる。
「気にしないで。てゆうか、息切れてるけど大丈夫?」
優しい声で言って、手元のお茶を差し出す。
佳奈はまじまじとそのお茶を見つめて、それからフリーズした。
「佳奈?」
「え、と、それは」
平然とした態度で首をかしげる裕太に、佳奈はもじもじと指を合わせる。
だってそのペットボトルは飲みかけで、つまり間接キスだ。
「いらない?」
「い、いります!」
引っ込めようとしたペットボトルに飛びついて、大きな声を出した佳奈に、裕太は一瞬目を丸くしたあと、喉で小さく笑う。
「うん、じゃあどうぞ。ほら、座って」
促されるまま隣に座り、佳奈はペットボトルと見つめあう。
「飲まないの?」
「飲みます……」
そう答えたものの、そこから先を行動に移せない佳奈を見て、裕太はおかしそうに笑う。
「今さら間接キスで緊張してる?」
言い当てられて、佳奈はバッと真っ赤な顔を上げた。
そこには余裕綽々の笑顔。
柔らかそうな髪の毛に、下がり気味の目尻。薄い唇。
そうだ、今さら。
もう何度も、あの唇に触れたのに。
まだ、いつだってドキドキしてしまう自分が情けなくて、佳奈は返す言葉もなく俯いた。
そんな佳奈の頭を、裕太の大きな手がゆっくりと撫でる。
先輩は、優しい。
佳奈はぎゅっと目をつぶった。
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