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彼女との出会いは、髪を茶色に染めるだけの高校デビューを決めた朝だった。
俯きがちに前を歩く姿を見て、その時は結構近所に同じ学校の人がいるんだなくらいにしか思っていなかった。
徒歩二十分という微妙な距離と、早く出過ぎたのか他に制服姿も見えず早くもダレてきたところでそれは起こった。
「いっ」
文庫本が地面に落ち、彼女は額に手を当てていた。電信柱の前で。
暇つぶしにきょろきょろと視線を忙しなく動かしていたせいで、ぶつかるところを見逃した。漫画みたいだったのに。
「大丈夫ですか」
こういうのは見ないふりをした方がいいのか、声を掛けていいのか難しい問題だが、俺以外誰もいなかったので駆け寄る。
「あ、ありがとうございます」
多分照れ隠しに笑っているんだろうが、鼻から赤い血が出ていた。
「うわ、血出てる」
「え?」
念のためにいつか街頭で貰ったティッシュを鞄に入れていてよかった。ハンカチは持ってない。
「これ使ってください」
封を破り、ティッシュを1枚出して渡す。鼻の頭が少し赤くなっていた。痛いのか受け取ると鼻に持っていく。
「わああ血が」
「これ全部どうぞ」
鼻を押さえたくぐもった声で「ありがとう」と言われる。足元に落ちたままの文庫本を拾ったが、手がいっぱいのようなので持って待った。
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