春 初夏 小雨

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【職員室】 あの日、『先輩』は職員室から出てきた。 白い廊下の壁より白いんじゃないかと思うような肌をした人だった。黒くて長い髪がまるで日本画の女の人みたいだった。 先輩の隣に華奢な女性が立っている。のちに先輩の母親だと知る人だ。先輩と先輩の母親は、教師に連れられて階段を下りて行った。すれ違う数人の男子生徒が先輩の方をちらっと見た。僕はそれを眺めた。廊下の窓から入ってくる4月の日差しはとても温かかった。 職員室から出てきた人の姿がまだ脳裏に焼き付いている。一目惚れというのはこういうものなのかと、ただぼんやりとそれを思った。 先輩は僕よりひとつ学年が上だった。職員室の前で初めて出会ってから数日後、先輩がつけているリボンの色で気が付いた。それ以来僕は度々、先輩を目で探すようになった。 しかし、先輩に会うことはあまりなかった。朝の校門、昇降口、廊下。生徒が集まる昼の学生食堂、午後の体育の授業の移動時間とか、2、3日に1回くらいは会っても良さそうなものだが、僕のその願いはあまりかなわなかった。     
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