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1話 悪五郎、氷の女王と戦う
正面に昇降口を見下ろす屋上からは、続々と校門をくぐって流入ってくる生徒たちの姿がつぶさに見分けられる。その脇には、ながい列をなした桜並木がながれている。
春だった。生徒たちの多くは、あたらしい環境に不安と希望に胸を膨らませているという風情で、血色のよい頬を上気させている。
屋上にたたずむ黒い影は、それを冷たい目で見おろしていた。
正確には、影が冷たい目をしているかどうかはわからない。影は、マスクをかぶっていた。象の牙か蚊の吻のように歪にとがった猛禽類めいた嘴と、死んだ魚の目のような感情のないレンズをもった、猛禽類と魚類のキメラのような俗にペストマスクといわれる代物である。それが、全身を黒いマントで覆って、頭に黒いシルクハットを冠していた。
まるでそれは、仮面そのものが生きているような印象をあたえた。
「総帥、標的が登校してきたようです」
その背後から、これまた似たような格好の、しかし割に小柄な黒いローブをかぶったガスマスクの怪人が、缶状のキャニスターを突き出すようにして現れた。マスクのせいか、くぐもった声をしている。
「垂れ幕の準備は?」
「できています」
「逃走経路は?」
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