1話 悪五郎、氷の女王と戦う

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 やがて腕組みをしながら群衆の奥から進み出てきたのは、ひとりの少女だった。  夜空のようにながれる黒髪に、雪のように色白の、冷たい風貌だが、その泥濘でもみつめるような冷めたまなざしは、どこか男を狂わせる魔力がある。総身から発散される冷気のような厳しさは、彼女の性格を物語るようだった。  冷泉美冬――頭脳明晰にして、校内一の美人と噂される才女が、そこにいた。 「ハァーッハッハッハ! 今日こそ年貢の納め時だ、ヒロインよ!」  心底嫌そうな顔をして、美冬が目を瞑る。 「はあ……。また、貴方なの?」 「ふん、そんな余裕ぶっていられるのも、いまのうちだ。今日は、貴様を倒すために、完璧な作戦を練ってきたのでな」 「その諦めの悪さだけは認めてあげるわ」 「これを見ても、まだそんな口が利けるかな?」  悪五郎が白手袋におおわれた指を器用にならす。せっせと一号が働き、足もとにある垂れ幕を掲げ、それを正面にむかって勢いよく投げ出した。 「っ、――……」  美冬の柳眉に、わずかに動揺が走ったのを、悪五郎の透徹した瞳は見逃さなかった。  それは、美冬がどこかの店に入る写真だった。わざわざ拡大印刷したものを、垂れ幕のように加工したものである。 「フッフッフ、どうやら、身に覚えがあるらしいな」 「……」     
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