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やがて腕組みをしながら群衆の奥から進み出てきたのは、ひとりの少女だった。
夜空のようにながれる黒髪に、雪のように色白の、冷たい風貌だが、その泥濘でもみつめるような冷めたまなざしは、どこか男を狂わせる魔力がある。総身から発散される冷気のような厳しさは、彼女の性格を物語るようだった。
冷泉美冬――頭脳明晰にして、校内一の美人と噂される才女が、そこにいた。
「ハァーッハッハッハ! 今日こそ年貢の納め時だ、ヒロインよ!」
心底嫌そうな顔をして、美冬が目を瞑る。
「はあ……。また、貴方なの?」
「ふん、そんな余裕ぶっていられるのも、いまのうちだ。今日は、貴様を倒すために、完璧な作戦を練ってきたのでな」
「その諦めの悪さだけは認めてあげるわ」
「これを見ても、まだそんな口が利けるかな?」
悪五郎が白手袋におおわれた指を器用にならす。せっせと一号が働き、足もとにある垂れ幕を掲げ、それを正面にむかって勢いよく投げ出した。
「っ、――……」
美冬の柳眉に、わずかに動揺が走ったのを、悪五郎の透徹した瞳は見逃さなかった。
それは、美冬がどこかの店に入る写真だった。わざわざ拡大印刷したものを、垂れ幕のように加工したものである。
「フッフッフ、どうやら、身に覚えがあるらしいな」
「……」
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