1話 悪五郎、氷の女王と戦う

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「黙秘は、肯定と受けとろう。さて、お次はどうかな?」  再度指を鳴らす。三枚目の垂れ幕が壁面に貼られた。群衆は、気がつけばその異様な光景に釘付けになっている。  そこには、スプーンを手にした美冬が、いつもの冷たい風貌からは想像もできないうきうきとした表情でひとり何かを熱心に食べている写真があった。  完全に沈黙した美冬を心底愉快げに見下ろして、悪五郎は大仰に両手をひろげて天を仰いだ。 「まさか、ああ、まさか! あの、泣く子の涙も氷柱と化す、天下の氷の女王が、ああ、なんと! ――毎日放課後には、友達にわざわざ今日は用事があるからと言い訳して、ひとりこそこそスイーツ店巡りを敢行するほどの、スイーツ大好きっ子だったとはなあ! これは傑作だ!」  悪五郎の悪意にみちた高笑いが天から降り注ぐ。美冬は顔をうつむかせている。群衆は口々にささやきはじめる。 「まじ? 冷泉さんってスイーツ好きなの? あんなにいつも厳しそうに振舞っておいて?」 「あんな楽しそうな冷泉さん見たことない」 「なんか、それって、なあ?」 「うん。イメージと違うっていうか……」  群衆の印象操作に成功した手応えとともに、嘲弄するような口吻を悪五郎は弄した。     
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