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夢は毎日見る訳ではなく、連続して見るときもあれば間が空くときもあった。夢を見なかった朝は特に、これから始まる一日が恐怖だった。
その日は冷たい雨が降っていた。
昼休みはいつも校舎裏でご飯を食べている。けれど、雨の日は外に出られないのでご飯を食べずに図書館で過ごすことにしていた。今日は人気の少ない心理学コーナーで背表紙を眺め、時々手に取ってパラパラとページをめくる。その時ふと、ある言葉が目に留まった。
防衛機制。耐え難い状況に直面した際、自分を守るために様々な心理的作用を起こすのだという。
その中には、現実では実現できないことを空想で補うといったことも記されていた。
私は目をそらすと、静かに本を閉じて元の場所に戻した。
なんとなく、そうではないかと思っていた。
普通、夢の続きを見たり毎回同じ人が出てきたりすることはない。つまりあの夢は、心が壊れかけた私が作り上げた理想の世界である可能性。
それでも、認めたくなかった。彼の存在を否定したくなかった。例え幻影だとしても、今私がなんとか過ごせているのは間違いなく彼のお陰だ。
私は教室に戻り、机の中から教科書を取り出そうとした、が。
…教科書が見当たらない。心臓がバクバクし始め、背筋が冷たくなる。それでも必死に平静を装って探し続けた。
持って帰ってしまったのかもしれない。どこかに置き忘れたのかもしれない。そう思おうとするのに、けれどもそうではないことは周りのクスクス笑いが証明している。
…今の私は、どんなに惨めな表情をしているのだろう。
彼ら・彼女らがこういったことをするのは珍しかった。だからこそ余計に、もしかしたら自分のミスかもしれないという気持ちがどこかにあって、私は唇を噛み締めた。
『…本当にピンチになったら、俺のこと呼んで』
呼ぶ名前も、そもそも彼が存在しているのかもわからない。私が作り上げた幻かもしれない。
それでも、私は彼に会いたかった。
私はその日の夜ベッドに入ると、きつく目を閉じて祈るように眠りについた。
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