1、小休憩

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「おい、ユリア、そろそろ起きろ。起きて運転交代しろ」  乱暴に身体を揺らされて、しぶしぶ重たい瞼を開ける。ぼやけた視界が徐々にピントを合わせ目に入ったのは、真っ暗闇の中を辛うじて前方のみが確認できる車のライトと相棒―もしくは共犯者と言った方が近いかもしれないーのデニスだった。好き勝手に伸びている金色の髪に隠れて表情は見えないが、彼が明らかに不機嫌なのは声から伝わってきた。    固まった身体をほぐしながら、どれくらい眠っていたかを確認する。友人の友人から譲られたこの中古の車は健気に時間を表示してはいるものの、明らかにおかしな時間を示していた。仕方なく暗闇の中、これまた貰い物の懐中時計を探し出す。目を凝らして針を読む。時刻は深夜2時。随分と長い間デニスに運転を任せていたようだ。 「一旦車停めるから、そこで交代な」  私たちの車以外誰もいない一本道の途中で車を停め、一旦外に出る。夜特有の刺さるような冷たい空気が気持ち良い。深呼吸をしていると、彼が紫煙をくゆらせながらジップロックを投げてきた。中身はタバコの葉と巻紙とフィルター。  お金がないのは分かっているけれど辞められない、私たちの悪い習慣だ。私たちの国ではタバコは安価な娯楽の代名詞で、あるようでない法律は守られず多くの未成年がすでにニコチン中毒だった。今いる国では2倍以上の値段がする。仕方なく少しでも安上がりの手巻きタバコで凌いでいた。金も飛べば寿命も縮むが、金で気晴らしが買えるならば安いものである。
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