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アブラゼミの鳴き声で何も聞こえない夏。
空気は停滞し、蒸し上がって、畳の上で横たわる僕の体をじっとりと包み込む。
麦茶の氷が崩れる音も聞こえないほどの鳴き声の中、君はいつまでも作品が仕上がらない僕に微笑んでいる。
「今日もうまくいかないの?」
僕の瓶底眼鏡から見える君は、ハーフパンツの先から白い脚を投げ出して座っている。
汗ばんだ肌はほのかに赤みを帯びて、けだるげな夏の色香を漂わせている。
「今日も暑いね」
身を起こし、僕は君がプレゼントしてくれた万年筆を握る。
升目の紙に記された、いくらになるかも分からない文字の列を睨む。
僕は君が、僕の作品を面白そうに読んでくれるのが大好きだ。
僕は君が、原稿をめくるたび表情を変えるのを見るのが大好きだ。
そして僕は、君が熱を帯びた様子で包み隠さず語ってくれることが大好きだ。
僕は君が、大好きだ。だから、頑張れる。
「あんまり無理しちゃだめだよ。今日は夜、花火大会なんでしょう?」
君に言われて、僕は開け放たれた窓を見る。
空には入道雲が立ち上り、いっそう、夏という言葉を僕の網膜に刻みつける。
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