犬山 三郎左衛門の場合

2/10
99人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
犬山家では学業を修めると家業に就くのだが、拙者(せっしゃ)は早くじじ上に追い付きたく高校を卒業と同時に働き始めたのだ。 無論、家の者達には大学へ行けと言われたが、拙者(せっしゃ)は何よりも社会勉強をするべきと考え、学業を(おろそ)かにして遊びだ女だと騒ぐような(やから)とは一緒にされたくなかったのだ。 地元では家の者達やじじ上に甘えてしまいそうなため、この街に一人で(おもむ)き就職活動をしたのだ。 初めは苦労したものだ。拙者(せっしゃ)のこの話し言葉は現代の者達には不可思議と思えるようで、面接では良くて笑われ、酷い時には「ふざけるな!」と激昴(げきこう)されたものだ。 武士(もののふ)である拙者(せっしゃ)は、このありのままの姿が(まこと)の姿であると言うのに。 人間とは不思議なもので、同じ人間でありながら少しでも人と違うと攻撃をする哀しい生き物なのだ。 そんな(やから)を『未熟者めが!』と腹の中で思ってしまう自分が未熟者なのかもしれないが。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!