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チョコレートじゃなくて金平糖。色とりどりの中から迷いつつ一粒を選んでそっと口に入れ、舌の上で転がすうちほのかにひろがる甘み…わたしの中でショパンのノクターンはそういう感じ。
「里、ショパンの彼がいるよ」
からかうように隣を歩く和美が言った。渡り廊下の先にある自動販売機の先客に、永嶋くんの姿がある。言われなくても気づいていた。新しい彼女と一緒なのも。
誰も見ていないと思っているのか楽しげにじゃれ合っている。見たくないのに目を離せない。それ以上近づきたくなくて立ち止まっていた。
「邪魔しちゃ悪いかな」
「見せつけたくていちゃいちゃしてんでしょうよ」
「でも気まずいよ」
「あんたって、ほんっと消極的ね」
「ど、どうせね」
消極的で、頑固で、面倒臭い。いつだったか妹にも言われたことがある。五年に及ぶ片想いを拗らせているのだから仕方ない。「どうせ」ともう一度言ってじりじりと後退りをしていると、「おっと」と両肩を掴まれた。
「すみませんっ、後ろ見てなくて」
「和ちゃん先輩と、お友だち。こんなところで突っ立ってどうしたんですか」
「生徒会長殿いいところにぃ」
「悪い顔ですね」
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