ショパンの彼

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 持ち帰ったプログラムを確認すると、ノクターンを演奏したのは二人。ただ片方は女の子だから消去法で… 「この永嶋くんって誰?」  どきどきしながら妹に聞いてみたが、「知らない。別の教室の人だから」というそっけない返事だった。発表会は地域のピアノ教室が合同で開催したものだったらしい。  憧れのようなもので、わたしもあんな風にピアノを弾いてみたくて、妹に笑われながらもショパンのノクターンを練習しはじめた。  だから最初は恋じゃなかったと思う。それでも、高校へ進学して永嶋くんと再会したときは、正直、運命だと思った。面影が残っていたわけではない。今も大切にとってあるプログラムの名前と同じというだけだ。そもそも顔を覚えていないのだから名前で判断するしかない。 「おめでたい子ね、同姓同名かもよ」  同じクラスで仲良くなった和美に指摘されるまで、別人かもしれないなんて思いもしなかった。ただ、永嶋くんがピアノを習っていたのは有名らしく、同姓同名の別人というわけでもなさそうで。わたしが育んだショパンのノクターンへの想いは、めでたく永嶋くんへの恋心へと昇華したのだった。 *  たどたどしい右手だけのノクターン。五年も練習したのに、ピアノ経験のないわたしにとってはそれが精一杯だ。     
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