あなたと私の夢

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 その少女は、気がつくと真紅の薔薇が一面に咲き乱れている花畑にいた。 其処彼処に広がる薔薇の香りを満喫している彼女の名は佐々木梨子。 純白のドレスを身に纏った梨子の目の前に見えるのは、幼馴染の姿だった。 「……望?」  一つ、違和感を覚えた。 彼は幼馴染である坂城望に違いないものの、どこか大人びているのだ。 そして彼の服装はタキシード。 まるで結婚式の新郎のようだと考えると、思わず笑みがこぼれてしまう。 「ねえ、望!まるで新郎さんみたいね」  茶化すように告げてみようとも、目の前の彼は虚ろな瞳で微笑みを浮かべ、梨子のことを見つめているだけ。 改めて自身の服装を意識する彼女。 すると、自分の姿は見るからにウェディングドレスだということに気づく。 「……望、これって誰の結婚式?」 「……」  返答はない。 理解できたのは、これが自身と幼馴染である望との結婚式だということ。 きっとこれは自身の夢ではないかということ。 自分はこんな夢を見てしまうほどには彼のことを好いているのだということ。 「こんな夢を見るなんて、本当に恥ずかしい……どれだけ私、望のことが好きなのよ」  梨子は、真っ赤になった顔を隠すように両頬を両手で抑えながら、恥ずかしそうに笑って見せる。 しかし彼はそんな彼女に何も言葉を返してはくれない。 それでも諦めず、梨子は彼へと言葉をかけた。 「ねえ、望。似合ってる?」  彼女が言葉をかけようとも、何も返してはくれない望。 笑っているものの、その瞳に光はない。 その瞳に梨子の姿が本当に映っているのかさえも分からない。 不安と悲しさに襲われた彼女は、思わず彼へと手を伸ばす。 僅かに開いていた二人の距離が、漸く一つになる。 「梨子……?」 「望ッ……!」  手を伸ばし、彼のことを抱きしめた直後のことだった。 真紅の薔薇が、望の胸に咲いたのは。 彼女は微笑みながら、嬉しそうに笑って見せる。 「綺麗、綺麗ね。綺麗だよ、望」  彼女は綺麗だと何度も何度も繰り返し口にした。 そうして幸せそうに笑った梨子は、崩れ落ち、眠るように目を閉じる望へと口付けた。
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