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ウェディングドレスを着ている彼女を目にして美しいと感じたものの、ついつい好いた女を揶揄いたくなってしまう子供染みた望。
「馬子にも衣装とはこのことじゃね?」
「……」
普段の彼女ならば、こんな言葉をかけようものならいち早く反論してくるはずだ。
しかし夢の中だからなのだろうか。
目の前の梨子は、ただただ自身を見つめている。
そして、その瞳には不安と悲しみが入り混じっているようで、何故か望自身も不安感を覚える。
何か不穏なのだ。
「……は?」
不穏の正体は、すぐにわかった。
目の前の梨子の足元には、自身と同じく薔薇の花が咲き乱れていた。
しかし、その薔薇は自身の足元の薔薇と異なる点がある。
ーーそう、真紅なのだ。
正確に言えば、周囲に倒れている人間の血液で染まった薔薇。
「梨子……?」
血の匂いにむせ返りそうになる望。
彼は、近づき手を伸ばす梨子を見つめることしかできなかった。
目の前の彼女は、夢の中の彼女は一体なんなのだろう。
そんな疑問を抱きつつ、望はたかが夢だと深く考えないことにする。
「望ッ……!」
酷く悲しそうな、辛そうな表情を浮かべた彼女が自身の名前をようやく呼ぶ。
そしてそのまま梨子の腕に抱きしめられる。
彼女の手に握られている刃など既に見えない。
「……は、ッ!!」
そしてその時だった。
気がつけば望の体は純白の薔薇の上に崩れ落ちていた。
「綺麗、綺麗ね。綺麗だよ、望」
幼馴染の嬉しそうな、幸せそうなそんな声が耳に残る。
また一つ、自分の骸が増えた。
彼女のいたであろう先々で薔薇は真紅だった。
そしてその側には必ず見えた自分の変わり果てた姿。
そしてその骸の一つと成り果てた自分。
「……」
彼はそれを酷くーーに思った。
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