♯4

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ーーあぁ、綺麗だなーー 早朝無線に届いた最後の肉声。 あの日の朝日はどのくらい美しかったのだろう。 今朝の朝日も綺麗だよ。一緒に同じ朝日を見ている、よね。 「雪が溶けたから捜索が再開されたんだ」 強い眼差しと硬い声の矢が胸を突き破る。 「兄さんはもう山にはいないよ。 先月見つかったんだ。それを言うために電話したんだ……」 「千葉くんは……」 「どこにもいない。山にも家にも……、兄さんは灰になって消えたよ」 「うそ」 「兄さんの友人にはハガキを出した。 けど、あなたには直接知らせたかった。 遺品の中に、あなたの写真を見つけたから……」 「聞きたくない。 ……千葉くんの遺品? うそッ! 帰ってください。もう二度と会わない。さようなら」 あんなに真っ白だった穂高は、ほとんど黒い山になってしまったよ。 千葉くん、千葉くんが綺麗だと言った冬山はもう終わったよ。 帰って来て。 待ってるから。ずっとここで待ってるから、お願い帰って来て。
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