♯2

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『もしもし』 あの声が聞こえた。 前回の電話からちょうど1週間経っていた。 今朝はさらに早朝。アラーム設定時刻よりゆうに30分ある。 『誰だかわかる?』 「わかるよ。この間電話くれたヒト」 『そう。迷惑だったよね』 「ううん。ちょっと気になってたから」 あれから何度も想像を働かせてみたけれど、結局思い当たる人物にぶつからない。 『誰だかわかる?』 ならもう誰でもいいか。 「うん。千葉くんでしょ」 千葉くんはずっと片思いしていた相手。ううん、現在進行形だ。 ずっとずっと囚われ続けている相手。むしろ囚われていたいと願い続けている。 自分だけは、自分だけは忘れないと自己満足の泉に体を沈めて。 『そう。朝早くにごめんね』 千葉くんからの電話は、喉から手が出るほど欲しかった。 「ううん。電話くれて嬉しかった」 すんなりと言葉が滑り出た。 あぁ、こんなにも簡単なことだったんだ。 「千葉くんのこと、ずっと好きだったから」 やっと言えた。 精神的にも物理的にも言えなかったこの言葉を。 『僕も好きだよ』 「……ははは。ありがとう」 なん年ぶりだろう、声をあげて笑うなんて。 振り向き、写真立てに微笑みかけた。 山岳サークル合宿で撮った写真の時間は、止まったままだ。 世界の時間はゆっくりと、けれど確実に動いているのに。 セットしていたアラームが鳴った。 「タイムオーバーみたい。もう切るね」 今度も少しだけ後ろ髪引かれたけれど、通話を終了した。
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