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「もしもし」
『もしもし、誰だかわかる?』
きっちり1週間後にかかってきた『非通知』は、彼の存在を知らしめるものに変わった。
「うん、千葉くんだよね?」
でも千葉くんじゃない誰か。
『あたり』
「え?」
携帯を握りしめたまま佇んでいると、同じように携帯を耳に当てたまま近づく人影が見えた。
『誰だかわかる?』
耳にダイレクトに届く声と、外から回り込むような声。2音のハーモニーがいつもの文句で問う。何度問われてきただろう。『誰だかわかる?』と。
千葉くんと同じ目、千葉くんと同じ声、千葉くんと同じ……、
「ち、千葉くん……?」
『あたりだけどはずれ。千葉ノリタカ。……弟だよ』
千葉くんよりも少しだけ色が白い。少しだけ背が高い。少しだけ……、ううん。全然違う。彼は違う。
彼は千葉くんじゃない……。
『毎朝この高台に来てるでしょ? 最初の電話の時から毎週見に来てた。
おかげで休みだっていうのに、早起きの癖がついたよ』
この高台は千葉くんのお気に入りだった。街を見下ろせるこの高台で千葉くんの帰りを待つのが好きだった。
『いつまで待ってるつもり?』
「待っているわけじゃないよ」
いつだって千葉くんは待たせてくれなかった。帰ってくるとも、待っていてくれとも言ってくれなかった。
「ただの自己満足だよ」
千葉くんがいる穂高の山頂から漏れる陽光が、辺りに色を与えていく。
どんなに闇が深かろうとも、太陽に敵うものなどいないと見せつけるように。
2度目のアラームが鳴った。
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