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「体の調子は良さそうだけど、何を悩んでいるんだい?」
「テオか…」
俺の隣に座るとテオはジョッキを一つこちらに渡して乾杯する。未成年のテオのジョッキにはお酒は入っておらず、ジュースが入っていた。雰囲気だけでも楽しみたいと恥ずかしそうに説明してくれた。
シルヴィアはセリーナの所に移動して「ついに明日、タケシさんとデートしますよ!」「やりましたね! 明日はバッチリとオシャレしてください!」と俺の胃にプレッシャーが掛かる会話が聞こえて来た。小さい声でやり取りして。ギルドに居る男たちの視線が怖い。
「テオ、助けてくれてありがとう。まずは最初に言いたかった」
「違うよ。きっとタケシの運が良かっただけ。僕達は何もできなかった」
「運が…良かった…だとっ…!?」
「そんな戦慄しながら言わないでよ。本音だからね?」
あのクエストを全体的に見て「幸運」だと言える部分がどこにあるだろうか? 全てが不運にまみれているだろ。
何故そんなことを言うのかテオに聞くと、
「ファフニールは、英知の竜とも呼ばれている。人類が得られないような知識を数え切れない程持っているんだ」
「……英知の竜」
つまり、賢いドラゴン。そんな相手に俺は一体何をしたのか思い出す。
特にファフニールの前で必死に子どもドラゴンの真似をしていたことを。
「絶対にバレてたじゃん」
「そうだね。気付かないはずがないよ」
真顔で答えを言うと、真顔で頷かれた。真っ赤になった顔を両手で抑えながら絶望する。完全無敵の馬鹿だよ俺。
「じゃあジャイアントホーンの肉を俺に食わせていたのは嫌がらせじゃねぇか! 遊ばれていたのか!?」
「そうだね」
「そこは否定して欲しかった!」
「ごめんごめん。だけど、ファフニールが何をしたかったのか未だに分からない。最後は見逃してくれたし、謎が多かった」
真剣にあの日の事を考える勇者に俺は溜め息しか出ない。聞きたくなかったよそんなこと。
だが「幸運」なのは本当なのだろう。もしファフニールの機嫌が悪かったら死んでいたのかもしれないのだ。元々好戦的じゃない竜だとしても、幸運だから今生きている。
「それと、ファフニールは姿を消していたよ。子どもドラゴンと一緒にね」
「どこかに行ったのか?」
「多分ね。世界を飛び回っている竜だから全然不思議じゃないけど」
「人騒がせなドラゴンだな」
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