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「うん…そうだね…」
タケシはブツブツとファフニールに文句を言い始めるが、テオはずっと気掛かりで仕方ない。
ずっと脳裏から離れない。タケシを抱えて巣から脱出した時に見たファフニールの目を。
どこか悲しそうで、怒りもあるようで、でも仕方ないと諦めているような目を。
「ったく、シルヴィアもテオのような男を好きなればいいのに」
いつの間にかシルヴィアについて話をしているタケシに、テオは首を横に振って考え事を頭の隅に置いた。
「タケシにも魅力があるってことだよ」
「ほう? じゃあ俺の魅力を言ってみろ」
「……………優しいところだよ」
「はい出たー。優しい出ましたよ。褒める言葉が見つからなくなった時に大体出て来る言葉だよ。聞き飽きたわ」
「はいはい! 私なら百個言えますよ!」
「お前の場合は百個が全部悪い方向だろうが! というかいつの間に帰って来た!?」
またタケシとシルヴィアが言い合いをしている。少し見慣れた光景にテオたちは心の底から笑う。
「明日のデートが楽しみだなシルヴィア! お前の絶望する顔を見れると思うと夜も眠れないぜ!」
「何を言うのですか! タケシさんのマイナスは私にとってプラスですよ! 忘れたのですか!」
「忘れてねぇよ! だから、明日は完璧なイケメン彼氏を演じてやるよ」
『イケメン(爆笑)』
「全員黙れ」
「完璧、ですか…いえ、無理ですよ。タケシさんにできるわけが…」
「明日は全部俺が金を出し、お前には一切出させない。料理もオシャレなお店で、綺麗な服も買ってやる。最後は綺麗な景色を見ながらカッコイイセリフを―――」
「そんなの私の大好きなタケシさんじゃない!!??」
『嫌な意味が分からない』
「皆、俺もそう思う」
「お金は全部私に出させて、手を繋がないで王都に居る女の子をチラチラ見ながら変な顔をしているタケシさんを見つつ、欲しい物は全部私に買わせて、最後だけ私に笑顔を見せて帰るくらいのクズさを見せてくださいよぉ!」
「冗談抜きで一回も考えたこと無いぞ。クズ過ぎるだろソイツ」
悔しそうにするシルヴィアを周りに居る人たちは黙って首を横に振っていた。さすがの俺でもやりたくないよそんなこと。
気まずくなったタケシはシルヴィアの肩を叩くと、
「なんか、その、普通で頼む」
励ましの言葉は特に無かった。とりあえず妥協をお願いしたのだった。
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