34人が本棚に入れています
本棚に追加
/217ページ
こうしてデートは始まった。いつもの朝食なら会話は途絶えないのに、今日は終始静かに食事をしてしまった。宿屋のオッサンが「え? 何? どうしたの? ん?」と一番動転していた。
静かに朝食を取ったあと、自然と外を歩いていた。ピッタリと隣に付くシルヴィアをタケシは嫌がることなく歩幅を合わせる。
「……………」
「……………」
いやホント、デートって何をすればいいの?
昨日はアレだけ大口を叩いたのにこの有り様だ。シルヴィアに恥をかかせてしまって申し訳ないと思い始めてるからね。
別の意味で駄目人間になりつつあるぞ俺。女の子一人くらいリードしてやれよ!
「どこか行きたい場所はあるか?」
「えっと、タケシさんの行きたい場所で構いませんよ」
本調子じゃないのはシルヴィアも同じだった。遠慮を見せたシルヴィアに驚きを隠せず絶句してしまう。
(会話も終了したし、話す内容は思い付かないし、どうすればいいんだ)
必死に無い頭でデートプランを考えるが、パッと思い付くことはない。緊張のせいで昨日の内に考えていたことは全部吹き飛んでいた。
しばらく王都の道を歩いていると、広場でたくさんの露店が開いているのを見つける。
「賑わっているな」
「王都の広場ではいつものことですけど、見に行ってみます?」
知っている場所にわざわざ連れて行っていいのか迷うが、ふと遠くに見える店を見て行くことを決める。
「射的とかあるのか」
「あ、やってみますか? 私はあまり得意じゃないですが…」
さすがに店が渡すのは銃ではない。小さい弓を構えて吸盤が付いた矢を景品に向かって飛ばしていた。
看板には「銀プレート以上の方はお断り」と注意書きが有り、ビオラのような猛者対策を忘れていないとシルヴィアは笑って教えてくれた。アイツにやらせたら一発で全部の景品を落としそう。
「得意じゃないか……勝負だ」
「えぇ…」
普段から負けているせいか勝ち目が少しでもありそうな勝負を仕掛けるタケシ。シルヴィアは困った顔をするが、頷いて承諾する。
店のオッサンに金を払って弓を貰う。経験はあるのかシルヴィアはすぐに構えて狙いを付ける。
「ん? こ、こうか?」
隣では弓が未経験なタケシがシルヴィアを見ながら真似ようとするが、全然できていない。周りの子どもたちに指摘されながらやっと構えることができる。恥ずかしさで顔は赤かった。
最初のコメントを投稿しよう!