第6章 リバース&リバース&リバース

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「行きますよっ」 真剣な顔でシルヴィアは矢を放つ。狙ったのは上段に設置された空のジョッキ。倒せばお酒一杯が貰える景品だった。 シルヴィアの放った矢は真っ直ぐに飛び、カコンッと良い音を響かせながらジョッキは倒れた。 おお!と周囲から声が沸き上がる。オッサンが「お嬢ちゃんうまいねぇ!」と褒めながら景品を獲得できたことを報告してくれる。全然下手じゃねぇじゃん! 嘘つき! 負けずとタケシも矢を引き絞り狙いを定める。狙うのは中段の変なぬいぐるみ。 「貰ったぁ!!」 みょ~んっと矢が弧を描いて飛んだ。あまりにも情けない射撃に周囲からドッと笑いが湧き起こる。 オッサンは腹を抱えながら首を横に振る。シルヴィアも後ろを向いて笑っていた。 泣きたい。すっげぇドヤ顔で良い声で「貰った」とか言ったのに、あの矢はイカンよ。 真っ赤な顔で恥ずかしさを耐えていると、シルヴィアはフォローに入る。 「はい! 確かに笑顔、貰いました!」 「ぶち抜くぞテメェ」 「人に矢を向けちゃ駄目ですよ! ちゃんと教えますから拗ねないでください!」 シルヴィアは俺の背後に立つと後ろから手を伸ばして俺の体を動かし始めた。 「肩の力を抜いてください。右手にグッと引く力を入れてですね…」 説明を聞きながら指示に従うが、タケシの頭はあることで一杯だった。 背中から密着するように体を押し付けているシルヴィア。そう、背中に柔らかい感触が伝わっているのだ。 (無防備過ぎないですかぁ! めっちゃ当たってますよぉ! もしかして当ててます!?) 絶対にワザとだと思うが、顔を見れば全く気にしていない様子だった。逆に無意識でこれは怖いよ!? 数分掛けてシルヴィアはタケシにしっかりとした弓の構えをさせることに成功する。やっと離れてくれたが、バクバクと心臓の鼓動が止まらない。 とにかく、このまま景品を狙うことに集中しよう。せっかく教えてくれたのだ。倒せなくても、景品には当ててやろう。 また中段にあるぬいぐるみを狙い、矢を手から放した。先程のようなみぉ~んとした矢では無く、シュバッと真っ直ぐに飛ぶ矢が弓から放たれた。 パシッと矢が景品に当たる。だが狙ったぬいぐるみではなく、下段にあった小さいフィギュアのような物に直撃した。
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