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今度は俺にもおお!と歓喜の声が沸き起こるが、別に狙ったわけじゃない。偶然当たってしまったのだ。
小さいフィギュアは赤いドラゴンに騎士が乗ったものだ。女の子に渡すには少し違うような気がする。
オッサンから景品を貰うがシルヴィアは案の定、俺にお酒の入ったジョッキを渡した。絶対に渡すと分かっていたから、お返しにぬいぐるみをあげたかった。
「あー、悪い。こんなので」
「えっ? 気にしなくていいですよっ」
予想通り、手を振って受け取りを拒否される。
「すまん、いらないよな」
渡して困らせるのは駄目だと思った俺はフィギュアをポケットに入れようとするが、シルヴィアが手を掴んで止める。
「い、いります…」
「無理はしなくていいぞ?」
「違います、勘違いしないでください。私は別に『竜騎士様』が嫌いなわけじゃないです。ただ、遠慮というかその…初めてのプレゼントというか…」
「竜騎士様? 有名なのか?」
「私のデレってそんなにガン無視できる物ですか?」
うるせぇ。こっちも恥ずかしいからやめろ。
頬を膨らませながらシルヴィアは竜騎士様とやらを見せながら説明してくれる。
「有名ですよ。遠い昔、凶暴で誰も寄せ付けない伝説の竜と和解した勇者が魔王を倒す為にドラゴンの背に乗って戦った話です」
凶暴な竜は一度も攻撃を仕掛けて来ない勇者の姿を見て大人しくなったという。鉤爪や炎で傷だらけになった勇者の為に、魔王を倒して世界を救う目標を持った勇者の為に、誇り高い竜は勇者を背に乗せることを許したと。
「竜と人が初めて力を合わせて戦った。見事に魔王を倒し、世界は救われた、そんなお話ですよ」
「ふーん」
「もし人に心を許したドラゴンの背に乗ることができたら『竜騎乗』と呼ばれますよ」
ちなみにドラゴンに人の心を弄ばれた奴のことは何と呼ばれますか? はい、『オモチャ』ですね。僕にピッタリなネーミングセンスだこの野郎。そっちの称号よこせ。
お酒を飲みながらまた道を歩く。嬉しそうにフィギュアを見るシルヴィアにまたドキドキしてしまう。
「そ、そろそろ昼飯にするか。シグリさんに教えて貰った良い店があるんだ」
「いいですね。早く行きましょう」
初めてのデートはぎこちないが、心の底から楽しい一時を過ごせていた。
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