第6章 リバース&リバース&リバース

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それからシルヴィアとデートを楽しんだ。と言っても王都で一緒に散歩しているだけだが。気になる屋台や店があったら入って出て、たまに購入しての繰り返しだ。 日が少し傾いて来た頃、シルヴィアが店で服を見たいと言うので俺はチョコクッキーのようなお菓子を食べながら外で待った。え? 一緒に行かないのかって? 俺に服のセンスを求めようとする時点で君はナンセンス。両親から「強烈にセンスがない」というパワーワードを貰って以来、服を選んで買っていないからな。今来ている村人服だって店員がオススメしている物だったし。 「異世界だなホント……」 ベンチに座りながら改めて実感する別世界。誰も現代的な服は着ておらず、ゲームやアニメで見たことのある服装ばかりだ。 憧れた世界を前にして普通ならテンションを上げるべきなのだが、これまでの激戦?を思い返すと逆にテンションは下がる。 「ミニゴブリンも倒せない主人公って…ギャグ漫画かよ…!」 ポリポリとクッキーを口にしながら落ち込む。異世界でチートな魔術が使えるわけでもなく、ムキムキな力で敵を薙ぎ払えるわけでもなく、ただフリーターだった俺を異世界に転生するというクソみたいな展開なのだ。 理想からかけ離れた現実に元の世界に帰りたいと思う。でも、元の世界で生きて行ける自信もない。だったら―――いや駄目! 駄目だから!? (シルヴィアの世話になるとか考えたら終わりだ! 決意しただろ! 変わるって!) そうだ。嫌いな自分をいつか好きだと言えるような人間になると決めたから、諦めないんだ。ミニゴブリンが倒せなくても、いつかは倒す。時間が掛かっても、必ず倒してやる。 顔をパンパンと叩き、クッキーを勢い良く食べる。最後の一つは空中に投げてパクッと食べようとか考えていると、周りが異常に騒がしい。 というか自分の周りが暗いことにも気付く。今日の天気は良かったはず。上を見上げると、 「グルルルゥ…」 聞き覚えのある低い唸り声に体は硬直する。蒸し暑い吐息が全身に当たり、体中から滝のように汗が流れ出す。 「ドラゴンだぁ!? ドラゴンが出たぞぉ!!」 街の人々の悲鳴や怒号が響き渡る。俺の頭上にはあの白い竜―――ファフニールの頭があったからだ。 どっしりとした体は王都の道を塞ぎ、翼を羽ばたかせて強風を巻き起こしている。
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