第7章 この一瞬だけでも主人公にしてくれ

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為すことのできなかったことを代わりに成し遂げたシルヴィア。一切作戦を話さなかったのに彼女は俺の行動を理解した上で引き継いで見せたのだ。 目玉から真っ赤な血が噴き出し、シルヴィアの防具を赤く染め上げる。絶叫を上げながらバハムートに振り落とされる前にファフニールの背に跳び戻る。 シルヴィアが帰って来た瞬間にファフニールの遠慮のない攻撃が始まる。白い魔法陣がバハムートの腹部に描かれ、巨大な白い炎が噴き出した。 魔法でバハムートは吹き飛び、衝撃で俺の体も吹き飛ぼうとしている。 ガチンッ!と金属がぶつかる音が響くと同時に軽い衝撃が体にかかる。驚きながら周囲を確認すると、体は宙に浮いたまま止まっていた。 「命綱、繋いで正解でしたね…!」 ファフニールの背から顔を出したシルヴィア。汗を流し無事な俺を見て安堵の息を吐いている。自分の命を救ってくれたのは腰に巻き付いているのはロープだ。 「ま、まさか乗った時に?」 「念のためにこっそり装着させて貰いました。まさかあんな形で落ちるとは思いませんでしたが…」 少し困った様子を見せながら笑顔になる彼女に俺は参ったと心の中で両手を挙げた。シルヴィアに引き上げられて再びファフニールの背に戻って来ることができた。 「……まだ生きていますよ」 「マジかよ…」 正面を向けば一帯がファフニールの出した白い炎が所々立ち昇っている。その奥には両目の視力を失ったバハムートが地面を這っていた。 「だけど、勝負はあったみたいだね」 「テオ…」 「無茶してくれたね。だけど僕達が何もできない中、よくやったよ。最後は君たちのおかげだ」 テオたちは距離を取ったままバハムートを様子見している。あの状態でも危険なのは変わらないのだろう。 しかし、瀕死なのは俺でも分かる。バハムートは敗北し、俺たちが勝利した。 「降りよう」 「いいのですか?」 「最後に手を下すのは俺たちじゃない。ファフニールだ」 テオたちに手を借りてファフニールから降りる。地面に足を付けると生きていると実感できて嬉しい気持ちになる。 後ろに下がりファフニールを見守る。ゆっくりと盲目のバハムートへ近づく。 ファフニールが近づいていることに気付いているはず。だがバハムートは威嚇する声も上げれないくらい弱っている。
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