第7章 この一瞬だけでも主人公にしてくれ

26/28
前へ
/217ページ
次へ
「夢を見てるみたい…ファフニールと共闘して、あんな馬鹿みたいな戦い方で災厄のドラゴンを倒したなんて…」 「私も信じられないです…人生で一番激しい戦いでした…」 バハムートが倒れたことで緊張の糸が切れ、レディシュとセリーナは大木に背を預けて休んでいる。剣を握ったままだがテオも安堵の息を吐いていた。 これ以上戦う必要性が無いと判断した俺は剣を鞘に戻すと、後ろからビオラが話しかけて来た。 「いいの? トドメを刺せば竜殺しの称号を得られるわよ」 「絶対にいらない。というか誰も信じないだろ」 首を横に振って拒否。ミニゴブリンすら倒せないのにドラゴンは倒しましたってどういうことだよ。いやこういう状況か。 全員でファフニールとバハムートの様子を見守っている中、テオが異変に気付く。 「タケシ? 怪我をしたのかい?」 「ん? ああ、ちょっとな」 腹部を抑えながら戦いを見守っているタケシの姿にテオが心配している。片目への攻撃を外し、振り払われた時に怪我を負ってしまった。 ズキズキと骨が痛んでいるが、ギリギリ泣かない痛みだ。隣にいたシルヴィアが急いで魔法で治療してくれようとするが、 「悪い、あとで頼む。今はアイツらの最後が見たい」 俺の頼みを聞いてくれたテオに肩を借りながら戦いを見届ける。 誰も予想できなかったドラゴンとの激闘。勝利は人の力を得たファフニール。 「グルゥガァ」 「……ゴガァ……」 ドラゴン同士の会話を理解できる者はいない。だがバハムートは死を覚悟して抵抗することをやめている。 ファフニールは狙いを定め、ゆっくりと爪を振り上げる。 その先から決して目を離さなかった。ファフニールは爪を振り下ろし、バハムートの頭部を引き裂いた。 歴史に爪痕を残して来た災厄の竜の最期を全員が脳裏に焼き付けていた。 バハムートが息絶えたことをファフニールは確認すると、こちらに向き直る。 「グルゥ…」 「何言ってるか知らんが、もう変なことに巻き込むじゃねぇぞ。巻き込むならテオにしろ」 「そうだね。何かあったら僕の所に来ると良いよ」 あれ? 嫌な仕事を擦り付けたつもりなのに快く引き受けているぞあの勇者。 「その時はタケシと一緒に助けるから!」 「いやお前を通して俺を巻き込んでいいわけじゃねぇよ!」 皆がケラケラと笑う。頼むから冗談抜きで巻き込まないで。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加