第7章 この一瞬だけでも主人公にしてくれ

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手を振って別れの挨拶をしていると、待ち切れなかったのか子どもドラゴンがファフニールに向かって飛んで来た。 「ハッピーエンドですね」 「そうだな」 そのまま竜の家族が小さくなるまで見送る。 竜の飛ぶ夜空には、綺麗な満月が輝いていた。 「……どうして手を握ろうとしないのですか?」 「どさくさに紛れて何をしようとしているお前?」 良い雰囲気だからって俺との距離が埋めれるとでも? 甘いわ。 「その宝玉が邪魔だなぁと思いまして。私がお金持ちではないとタケシさんが私に依存しないので、まずはこちらに渡して―――」 「テオ! ダッシュで逃げて! 早く早く!」 「わわっ!? 僕の背中に乗らな―――うっぷ!?」 「おわああああああァァァ!! テオが逝った!? まさか!? き、気を付けろお前ら! 魔法が切れ始めているぞ!」 「た、タケシさん……私の醜い姿を、どうか見ないでください…!」 「待てよお前…! 見ないからこっちに近づくな…! 向うに行けばいいだけの話だろうが!」 「ごめんっ…限界だから介護して…」 「神よ…許してください…」 「ビオラ? セリーナ? 顔色が悪いのは分かったから…! あとでちゃんと介護するから…!」 「タケオ、汚れているなら同じでしょ…? うっぷ」 「こんな汚ねぇオチがあってたまるかあああああぁぁぁ!!!」 バハムートとの戦いで一帯はジャイアントホーンの肉だらけ。地獄の光景が広がっていた。 ファフニールの魔法が解ける。それは同時に耐性の無い者たちが絶望する瞬間でもあるのだ。 堪えることのできない衝動を、唯一耐性のあるタケシに助けを求めながら、彼らは吐き出した。
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