第10章 俺にこんな隠された(微妙な)力があるだと!? 

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装備を整え戦闘に備えた受験者たちは南の森の入り口まで移動した。筆記試験を受ける前のような余裕は誰もなく、真剣な顔をしている者が多かった。戦闘前になると気持ちを切り替えるスイッチがあるらしい。珍しくシルヴィアも静かに剣を握り絞めながら小声で俺に話す。 「どさくさに紛れてルドルフを後ろから刺せないでしょうか?」 勘違いしていた。こんな状況でも彼女は平常運転だ。 とりあえず「失格になるかもしれないから今度にしろ」「分かりました」とルドルフの暗殺だけは否定しないでおいた。この試験が終わったあと、ルドルフから酷い目に遭うならその前にシルヴィアから酷い目に遭っていて欲しいと切実に思ったからだ。 今もこうして内緒話をしている俺たちを睨み付けているルドルフ。その後ろから先程の女の子たちが手を振っている状況に俺の背中の汗は止まらないぜ。 「もしあの女の子たちの誘いに乗ったら、私は重い女になりますからね」 「……例えば?」 「監禁」 重いってレベルじゃねぇよ。闇堕ちすな。それただのヤンデレ。 「じゃあこうしよう。試験に合格できたら誘いには乗らないってことで」 「ず、ズルいですね…そこは合格したら私をデートに誘うとか男前なことをですね…」 「何それ拷問?」 「たった今タケシさんを監禁してやりたくなりましたよ」 おい馬鹿やめろ。その掴んだ手を離せ。目のハイライトを消すな! 「冗談だから!」と何度も言うが、手を離してくれない。先程の誘いに乗ろうとしていた件を気にしているのか念を押して何度も乗らないように注意される。 独占したいという気持ちを隠すことなく正面から見せつけられた俺の顔は熱い。恥ずかしさで段々と余裕がなくなってしまう。 「分かった分かった! 絶対に乗らないから手を離せ! 約束するから!」 「本当ですね! 約束しましたからね!」 目を見て話せと言わんばかりにグッと顔を近づけられてしまう。慣れたはずの距離感なのに急に意識してしまう。 「よし、全員集まったな。それじゃあ実技試験を始めるぞ!」 グッドタイミング。シグリさんの声が聞こえると、シルヴィアも話を聞く為に距離を取ってくれる。ホッと息をつくことができたが、 「試験内容は簡単。この南の森を抜けて、キャンベル村まで行くことだ」 あまりにも簡単な内容に受験者たちは逆に怪しんでしまう。俺も何か裏があるのではないかと疑っている。
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