第10章 俺にこんな隠された(微妙な)力があるだと!? 

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魔王から死の宣告でも受けたかのようにタケシの顔が真っ青になる。様子を見ながら対策を立てようとしていたのに、計画が全てが崩されてしまった。 「ま―――!」 「無理だ」 「―――ってくだ……まだ全部言ってないですが!?」 「タケシ。お前なら必ず試験を完璧にクリアすると信じている。だから自信持って行け」 シグリさんの笑みを見た俺は吐き出そうとしていた言葉をグッと飲み込む。そこまで言われてしまっては我が儘や文句を言えない。愚痴も不満も、我慢するべきだ。 パンッと両頬を叩いて気合を入れる。前を向き胸を張って「はい!」と元気良く答えた。 「この試験は私が最も信頼する魔術師の力を借りて皆さんを見ているので、不正はズルは駄目ですよ」 ニッコリと孫に見せるような笑顔を浮かべるご老人。英雄カーティスと呼ばれた伝説の男の目を容易に騙し、不正は絶対にできないことは分かり切っている。 シルヴィアと並んでスタートラインに立ち、目を合わせる。 「頼りにしてるぜ相棒」 「任せてください。だって私たちは…」 そうだな。俺たちは、 「前世では世界が終わる瞬間、永遠の愛を誓い合った仲ですからね」 「ツッコミ所が多過ぎるっ。前世で世界が終わっていたら今のお前はいねぇよ。あと誓い合ってねぇし」 またアホなことを言っていると呆れていると、「あれ? 私だけじゃなくタケシさんもいないですよね?」とか妙に勘の鋭いことを言い出すからビクッとなってしまう。そりゃ異世界から来たからこの世界が終わっても俺の世界は無事ですからね。 そんなことより試験に集中だ。シグリさんの声を合図に俺たちは走り出す。 「試験、始め!」 「ぶっはっ!」 勢い良く足を踏み出し、柔らかい土の上を盛大に滑り転んだ。俺、普通にスタートダッシュを失敗したわ。 「た、タケシさぁん!?」 シルヴィアに心配され、シグリさんは手を額に当てる。あまりにも情けない開始に、周りは唖然としていた。 まぁでも、このくらいダサい方が自分らしくていいよ。カッコつける方が間違っている。 顔に付いた土を気にすることなく俺は急いで立ち上がる。そして、 「もう一回やり直してもいいですか!?」 「やめとけ。もう行って来い」 「うっす!」 気持ちを切り替え、顔を真っ赤にさせながら逃げるように疾走した。その後ろをシルヴィアは苦笑いで追いかけたのだった。
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